「ぁっ…!!」

突然の仕打ちに当惑しながら少女を見つめ返すと、その表情は先程とは打って変わって笑顔が消えていた。

「嘘言わないで!そうやって気のない振りしてあたしの陸を騙したんでしょ!?」

――陸は当初、協力者だという人物に促されるままに月虹から逃げてきたに過ぎない。

しかし慶夜に襲われた際には、月虹へ戻るつもりはないと断言している。

それは決して他人から強要された訳ではなく、陸自身の意思で決意した気持ちの筈だ。

「陸やあたしみたいな能力者は、月虹にしか居場所がないの。外の世界には能力者を利用しようとする、あんたみたいな嘘つきばっかりだってずっと教えられてきたもの」

違う――能力者たちから記憶を奪って、虚偽の情報を教え込んでいるのは月虹のほうだ。

「あたしから陸を奪おうったって、そうはいかないんだから!」

しかし先程からこの少女には、慶夜のような“陸を月虹へ連れ戻す”という目的以外の想いがあるように見える。

「っ……貴女は、陸のことが…」

そう訊ね掛けると、少女は上機嫌な様子で笑みを浮かべた。

「だぁいすき。あたしは綺麗なものが好きなの。とっても綺麗な陸のこと、初めて逢ったときからずぅっとあたしのお気に入りなんだからぁ」

(陸の、外見が好きなだけ…?)

「陸はいずれ、あたしのものになるの。月虹のみんながそうしてもいいって言ったんだもの。だからあんたが横取りしようとしたって無駄なのよ」

「そん、な……っ陸を物みたいに言わないで…陸は、自分の意思で月虹に戻らないって言ったの…!陸のことが大事なら、陸を苦しめるようなことはしないで…!」

「…何、言ってるの?陸がそんなこと言う筈ないじゃない、あれは月虹の言いなりのお人形さんなんだから」

月虹の言いなり――たとえ以前はそうだったとしても、今は違う…!