「馬鹿言うな!この子は何も悪くない、おかしいのはそっちのほうだろ!?」

夕夏が上げた怒声に、少女は不快げに翠色の眼を細めた。

「へえ…やっぱり、外の世界には間違ったことを言う奴しかいないんだぁ。月虹のみんなが一番正しいこと言ってるのに」

彼女も月虹に連れ去られた能力者の一人――だとすればこんな考え方を、月虹の人間らに植え付けられてしまったのか。

でなければ月虹のほうが正しいだなんて、そんなこと言える筈がない。

「陸はとっても綺麗であたしのお気に入りだったのに…余計なことした奴のせいで、陸とは引き離されるし変な虫が付くし、もう最っ悪ぅ」

ざわり、と周囲の空気が俄に殺気立つ。

「晴海、こっち!!」

ぼんやりと目の前の少女のことを観察していると、半ば強引に夕夏に腕を引き寄せられ る。

よろめきながら真横に避けると、今まで晴海が立っていた場所の真下から無数の鋭い木の根が突き出した。

「っ…!!」

「あはっ!どーお?殺されたくなかったらぁ…陸の居場所、素直に吐いてくれるぅ?」

ひらひらと木の葉のように煌めく翠緑色の光を両手に纏った少女が、くすくすと愉しげに笑みを零す。

これは彼女の――草木を操る能力か。

「っ冗談じゃない…君のこと見てたら尚更、陸をそっちに帰す訳にはいかないって気分になったっての!」

夕夏の掌に真っ赤な焔が灯る。

其処から複数の火球が少女に向かって飛び出したが、瞬時に木の根が少女の周囲に張り出して盾になった。

「やだぁ、そんな弱っちい焔であたしと張り合う気ぃ?」