「――ねえ、其処の人たち」

もうすぐ診療所に辿り着く寸前のところで、ふと背後から呼び止められる。

夕夏と共に振り返ると、少女がひとり、立っていた。

「えーと…何か?」

直前に髪色の話をしていたせいか、炎夏では馴染みの薄い栗色の髪が妙に目を引く。

「そっちのお姉さん、能力者でしょ。この辺で銀髪の能力者、見掛けなかった?」

「…えっ」

陸のことを探している――そう思った瞬間、思わずびくりと身構えてしまった。

こちらを見つめる少女の眼差しに、あのときの慶夜と同じ冷たさを感じたせいもあるだろうか。

晴海が示した反応に、少女は即座に何かを感じ取ったように不敵な笑みを浮かべた。

「…あはっ、もしかして当たりぃ?」

「晴海、この子まさか…!」

それまで薄ら笑いを浮かべていた少女が、夕夏の言葉を境に表情を一変させた。

「…あんたね?あたしから陸を引き離そうとしてるのは」

「!」

真っ直ぐに敵意を含んだ視線で射抜かれて、どきりとする。

「な…にを、言って…」

「陸は、月虹から出ちゃいけなかったのよ。あんたみたいな女に騙されて、帰れなくなっちゃうもの。月虹に居続けさえいれば、ずぅっとあたしと一緒にいられたのにっ…」