「どしたの?」

「うっ…ううん、私…あんまりそういうこと言われたことないから、ちょっと照れ臭くって」

買い物に出掛けた際、立ち寄った店主たちが美人さんだねと言ってくれることはあるが、あれは商売柄、お世辞が上手いだけだろうし。

「…本当に?君、今までその顔に自覚なかったの?」

信じられない、というような口振りで夕夏に詰め寄られる。

「だって君、あの秦に言い寄られてるんでしょ?あいつ、相当面食いだよ」

「あ…あの人は多分、私が誘いに乗らないからむきになってるだけじゃないかな」

自分に興味がある訳じゃない、と晴海は思うが夕夏は腑に落ちないといった表情で首を傾げた。

「そう、かなあ……まあ、あの馬鹿はどうでもいいけど君は本当に可愛いよ?」



「なっ…なんで夕夏の奴が帰って来てて、晴海と一緒にいやがるんだよ…!あいつが傍にいたら晴海に近寄れねえじゃねえか」

――噂をすれば、影。

遠巻きに晴海の姿を見付けた秦は、その傍に自身が苦手とする幼馴染みの存在を認めて憤慨した。

というのも秦にとって夕夏は、晴海が現れるまでは“唯一自分より強くて思い通りに出来ない女”として存在していたからだ。

「ちっ、仕方ない…今日のところは出直すか…」

夕夏に見付からないうちにと、秦はそそくさとその場を後にした。


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