「今日は逃げないのか……そいつが、いるからか?」

その言動の原因は、青年に対する嫉妬だった。

普段は他の誰にも向けられない晴海の関心が、自分以外の人間――それも男に向いている。

それが秦の妬みを買ったことに、晴海は気付かなかった。

「ま…その様子じゃ、お前を助けてくれそうにないな」

秦はまるで青年へ見せ付けるように、晴海の腰回りに指を這わせ始めた。

「やっ…!?」

「だったら見せ付けてやるか」

秦が今まで見たこともないような凶暴な眼付きをしていて、背筋にぞくりと悪寒が走る。

懸命に抵抗するが、両手首を一纏めに掴む秦の手は全く振り解(ほど)けない。

「やだ…!秦、やめ、てっ」

必死で絞り出した声が、嫌悪感で込み上がる涙のせいで上擦る。

しかし秦はそれに全く構わず、服の上から身体を撫で回す。

「ぃやっ…ぁ…」

大嫌いな秦の手に、あの青年の目の前で触れられるのが堪らなく嫌だった。

嫌で、嫌で堪らないのに、怖くて身体が竦む。

「銀髪野郎、見えるか?どうだ、いい眺めだろ?」

相手がどんな反応を示すのか秦は楽しんでいるようだったが、あの緋色の眼にこんな光景を映して欲しくなくて、晴海は青年から顔を逸らした。