「…は?」
それは、いつも通りの夕食の時間。
珍しくパパが早めに帰宅していて、久しぶりの家族三人揃っての夕食だった。
ママの作った美味しそうなビーフカレーが食卓に並び、七時から始まるドキュメンタリー番組を見ながら"いただきます"を待っていたら、突然パパが真剣な顔で私の名前を呼んだ。
「莉乃、」
りの――と、呼ばれてテレビからパパへと視線を移す。
ママも何故か真剣な面持ち。
突然の緊迫した空気に私のシックスセンスらしきものが、何かを感じとった。
何か怒られるような悪いことでもしたっけ、と緊張しながら「何?」とパパにひきつり笑いを浮かべる。
「莉乃、よく聞いてくれ」
「う、うん」
「父さんな、」
「うん」
「父さんの会社な、」
「うん」
「…倒産するかもしれん」
「…は?」
無意識に出た言葉は、それだった。
一瞬真っ白になって、後からぐるぐると不安が湧き出て渦になる。
パパの会社が、倒産…?
「え、ちょっと、それ、まじなの?」
「ああ。最近赤字続きで、社員に渡す給料すらない。借金もあるし、買収してくれる会社も協賛してくれる会社もない。終わりだ」
項垂れたいのを我慢するように、下唇を噛むパパ。
ママの方を見ると、前々から知っていたのか目を瞑って黙りこんでいる。
待って、待って、倒産って……
「パパ!本当に協力してくれる会社はないの!?」
「…ああ。唯一の希望だったトキワ商社にも断られたしな。でも倒産してもお前たち家族に迷惑はかけない。また新しい職を探して稼ぐさ。とりあえず報告したかっただけだ」
そう言って場を和ませるように「おお!ビーフカレー美味しそうだな!」と笑顔で食べ始めるパパ。
その笑顔が作り笑いということくらい私でさえ分かる。
それに、大好きなビールだって、煙草だって最近持ってない。
もしかして、本当に借金が…?
でもでも今まで普通にいつも通りだったし……パパが頑張って気付かれないように、自分の身を削ってただけ?
だから帰りも遅く、疲れたようにご飯も食べずに寝てたの?
「っ……」
倒産なんて、そんなの…
そんなのさせない!
「パパ!」
ダンッ!と机を叩く。
驚いたように目を見開いて私の方を見るパパとママ。
私は決意した。
「あと半年待って!半年だけでも会社を保って!その間に私も頑張るから!」
何が何でもパパを救うんだから!!