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カノンと別れて町を出た私は、王都に、そして生まれて初めて王城に足を踏み入れた。

私が生まれ育った町は飛びぬけて貧しい人々が多い町というわけではなかったけれど、それでもやはり、王都の賑いは私の知っている街や市場のそれとは全く違った雰囲気を持っていた。

ガラガラと馬車に揺られて城に入るとさらに、ここが自分にふさわしい場所ではないのだと、肌に触れる空気だけでひしひしと伝わってくる。


────カツン、と足下で微かなヒールが音を立てた。


馬車からおりて、自分の足で地面を踏みしめ、王城へと入る。


ピンと張りつめた澄んだ空気に、思わず姿勢を正した。




「……あなたが、わたくしの身代わりなのかしら?」


王城に入ってすぐに、感情の伺えない平坦な声が響いた。


……まるで鈴を転がしたような、とても綺麗な声。

それなのに、自分のまわりのすべてを拒むように、感情が少しも込められていないように感じる。


私の傍についてくれていた女の人が「クレア王女です」と耳元で囁いてくれたおかげで、すぐに頭を下げることができた。

思わずホッと息を吐く。


……まだ、無礼を働くようなことはしていないはず。


自分で自分にそう言い聞かせて、それでも、生まれて初めて目(ま)の当たりにする王族の圧倒的なオーラに心臓がドクドクと大きく音を立てていた。