護衛にまでミディの息がかかっていたのはさすがに驚いたけど、と彼女は付け足すように呟いた。
どこか自嘲的に笑った彼女の表情から目が離せずに、言葉が出て来ない。
しばしの沈黙が流れ、その間、自分の心臓がドクドクとやけに大きな音を立てているような気がしている。
「あんたが……、クレア王女?」
やっと出てきた言葉は絞り出したような声で、そしてもはや訊くまでもないことで。
俺の問いに動じる様子も無く、彼女はまっすぐな瞳を俺に向けて頷いた。
「ええ、そうよ。私の名前、……クレア・ハーモニアというの」
凛とした、芯のある声で彼女は名乗る。
それは何度も耳にしたはずの名前で。
暗い感情と共に、何度思い浮かべたかわからない名前。
なのに、彼女自身の声で紡がれたその名は、今まで聞いたどれとも違っているような錯覚を覚えた。
彼女自身が名乗っただけで、とても高貴な名前であるように思わせられる。
それでも。
俺にとってはただの傷だ。
どれほどの価値を持っていても、その名前は俺にとって、痛みでしかない。
「……っ」
感情を抑えることができずに表情が歪んだ。
じわり、じわりと胸に痛みが広がっていく。
……ごめん、フレイ。
彼女を守り切るという約束。
もしかしたら、守れないかもしれない。
どうして、よりによって彼女なんだ。
誰でもいい、彼女以外の誰かなら、決意を揺るがすことなく守りぬくと誓うのに。