-side:Kanon-


窓の外から聞こえる鳥の声で、目が覚めた。


目をあけると、いつもどおりの天井が視界にぼんやりとうつる。

何度かまばたきを繰り返すとだんだん意識がはっきりしてきて、あくび交じりに身体を起こした。



ベッド脇の窓を開けて部屋に吹き込んできたのは、カラッとした初夏の風。

早朝らしい涼やかな風に思わず、大きく息を吸い込んだ。


「……よ、っと」

身体の上からほとんどずり落ちてしまっていた薄手の布団を脇に避け、立ち上がる。

ギシッ、と古びたベッドが音を立てた。


時計を見ると、6時を過ぎたところ。

朝が早いこの街では、もうすでにあちこちから生活の音が聞こえ始めている。


それにしても今日はいつもより賑やかな気がする、そう思いながら日付を確認して、ああ、と思い至った。


……今日は、街をあげての祭りの日だ。

1年で一番、街が騒がしく、賑やかに、活気づく日。

そして、たくさんの人に溢れる日。



数年前までの自分は、この祭りをとても楽しみにしていた。

賑やかで楽しげな雰囲気が、好きだった。



……だけど、そんなふうに考えていた自分を、今はとても昔のことのように感じる。

きっと、心からこの日を楽しみだと思える日なんて、少しの痛みも感じずこの日を迎えられる朝なんて、二度と来ないだろう。

毎年、夏が始まる頃に行われるこの祭りがやってくるたび、思い出すのだろうから。

もう二度と会えない、大切な人のことを。


「……」


────サユが亡くなったとしらせがあった、1年前の祭りの日。

あの日も、とても爽やかで、果てのない夏の青空が広がっていた。