「サユ様」


ノックの後、ドアの外から私を呼ぶ声に返事を返す。


静かに開いたドアから入ってきたフレイが、「クレア様がお呼びです」と言い、私はベッドから立ちあがった。



……ねぇ、カノン。

やっぱり私は弱いね。


カノンのことだけは、ちゃんと断ち切れなかった。

きっぱり別れを告げられなかった。

それを今、とても後悔している。



私、嘘を吐いたの。

また逢えたら、なんて。

本当にひどい嘘を吐いた。


身代わりをするように命じられた時から、本当はちゃんと分かっていた。

カノンだって、本当はわかっていたでしょう?


……私たち、もう逢えない。



「サユ」


辿り着いた部屋で私を待っていたクレア王女は、微かに唇の端を上げ、笑みを作る。


私は、その儚くも強くあろうとする笑みに、胸がギュッ、と痛むのを感じた。