ふいに思い浮かんだ大好きな人の面影を、私は慌てて打ち消した。
「クレア様は不器用なところはありますけど、本当は誰よりお優しい方なんです。
……サユ様を身代わりとしてこの城に呼ぶことも、最後まで渋っていらっしゃいました」
「そう、なんですか」
私が頷くと、侍女は「お部屋にご案内しますね」と言って歩きだす。
しかしすぐに思いついたように立ち止まり、私をまっすぐに見て、優しく微笑んだ。
彼女が身を翻すと、ひらりときれいにスカートの裾が揺れる。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は、フレイと申します」
クレアの侍女をしているというフレイと名乗った彼女は、私より少し年上のように見えた。
落ち着いた所作に、ほれぼれとしてしまう。
「明日からは教養やマナーを学ぶことになります。いずれはクレア王女に変わって民の前に立つことになりますので、できるだけ早く、そしてしっかりと修得できるよう努めてください」
「はい」
与えられた部屋にたどりつくと、「何かありましたらいつでも呼んで下さい」と頭を下げ、フレイは部屋を出ていった。