「あなた、名前は?」
ひっそりと囁くような声でそうたずね、クレア王女が首を傾げた。
「サユ……、サユ・リズネットと申します。本日から、お世話になります」
「そう。あなたが来てくれて嬉しいわ。この城には歳の近い令嬢があまりいないから、退屈していたの」
私が名乗ったあと、クレア王女はこころなしか先ほどより柔らかい声で答え、ふわりと小さな微笑みを浮かべる。
それはどうしてか泣きたくなるくらいの儚さを感じる、とてもきれいな微笑みで。
「よろしくお願いしますわ、……サユ」
────冷酷な美姫・クレア。
民衆にそう呼ばれる少女が浮かべる表情とは思えないほどに、大きな優しさと哀しみに、満ちていた。