「詩穂…!」
一川が、百瀬井に抱きついた。かと思うと、せきを切ったように泣き出した。
「茉莉乃…。」
「うぅっ…。」
「泣かないで…。」
「だって、詩穂がそんなに悩んでるなんて知らなかったから…。ゴメン…詩穂…!」
この空気をかき乱せる者は、きっとどこにもいない。俺ですら、ただ立ち尽くすばかりだった。と同時に、いたぶるような言い方をしてしまった自分を恥じ、責めた。