彼は機嫌をよくしたのか、嬉しそうに目を細めた。そしてジリジリと近付いてきて、私を壁際と追いやる。もう逃げ場がない。
「だったら、きっちりと責任をとってもらおうか?」
「せ、責任って?」
「俺をその気にさせた責任」
「その気……?」
「そ」
再びずいっと近付いてきた綺麗な顔。
その顔はそのまま私の唇を――なんてことはなく、耳元へと寄せられる。
「『あなた!』って台詞、不覚にもクラッときたぜ。なぁ、――お前がほしい」
女の子が聞いたら一瞬で落ちそうな、そんなとびっきり甘い声音で囁かれて、私はいい意味でも悪い意味でも鳥肌がたった。
思わず彼を突き飛ばしてしまう始末だ。
「いってぇ……テメェッ」
あ、やばい。もしかしたら今ので彼を怒らせてしまったんじゃ……!
泣きそうになっていると、彼のズボンからバイブ音が聞こえた。
彼は渋々そのバイブ音の正体――携帯電話――を取り出し、パカッと開いて中を見た。
どうやらメールが届いたようで、すごくバツの悪そうな顔をしたかと思うと、再び私に目を向ける。