でも、と、だるそうにベッドに横たわる榊先生を見ながら、わたしは思う。

……“こっち”の、榊先生も。

わたしは決して、嫌いなんかじゃないのだ。



「……先生、」



呼びながら、わたしは榊先生のいるベッドへと近付く。

足音に気付いたのか、先生は横たわったままで閉じていたまぶたを開けた。



「なに、桜井──」

「先生、わたしを食べてください」



先生の言葉にかぶせるようにわたしはそう言って、綺麗な顔を覗き込んだ。

ベッドについた手のせいで、きしりとパイプベッドが小さく鳴る。

すぐそばにあるわたしの顔を見上げ、先生は隠すことなく眉をひそめた。



「……ほんと、どうした桜井。生粋のオジョーサマともなると、マジで頭のネジどっか抜けてんのか」

「………」



──生粋の、オジョーサマって。

それはわたしの家が代々政治家を輩出していて、祖父と父も、今現在内閣にいる官僚だからということだろうか。


でも、それでも榊先生がわたしを見るときの瞳には、何のフィルターもかかっていない。

ただの“桜井 仁那”として、接してくれる。

綺麗で、狡くて、そしてとても自由。

……だから、わたしは、この人に食べられたいと思うの。