「土屋さん、ちょっと見せてください」



言うが早いか、先生は彼女の手をどけさせると、傷口の様子を確かめた。

それを横目にわたしは立ち上がって、薬品が並ぶ棚へと足を進める。



「これ、水で洗い流しました?」

「へ? ううん、そのままここ来たから」

「そう……とりあえず、そこの水道で傷口を洗ってください」

「ええー? 消毒液つければいいんじゃないのー?」



面倒くさそうな表情でそう言った土屋さんを、先生はやわらかな笑顔ひとつでたしなめた。

彼女の肩を軽く押して、流し台の前まで誘導する。



「それではダメです。消毒液を使うと、傷に対していい働きをしてくれる常在菌まで死滅させてしまうことになりますから。このくらいの傷なら、流水で洗ってハイドロコロイド材の絆創膏を貼っておけば大丈夫」

「はいどろ?」

「土屋さん、これのことだよ」



言いながらわたしは、タオルで手を拭く彼女のそばに近付いた。

棚から出した“それ”を、目の前に差し出す。