目の前にいる白衣の人物──榊 克己先生は、『先生』だけど『教師』じゃない。

高等部の保健室に常駐する、養護教諭……いわゆる『保健室の先生』だ。

わたしはよく榊先生に頼まれて、放課後こうして雑用を手伝っている。

……というより、“手伝わされている”の方が正しいのかもしれないけど。



「せんせー、バンソコちょーだ~い」



と、そこで元気な声とともに、出入口のドアがガラッと開いた。

ドアの方に目を向けてみると、ひとりの女子生徒が立っている。

とたん、棚の前の榊先生が、それまでの仏頂面から一転、にこやかな笑みを浮かべた。



「土屋さん。どうしました?」

「やー、部活でカッター使ってて、手元狂っちゃって。さくっとやっちゃったんだよね~」



そう言って土屋さんはあはは、と笑ってみせるけど、右手で左の人差し指をティッシュで抑えている。

榊先生は少しだけ眉を寄せ、近付いてくる彼女に自らも数歩踏み出す。