「…ばあちゃんじゃなくて、たえさん」
「そう、タエさんよ」
タエさん。私はもう一度呟いた。
その日から私の中のばあちゃんは霧の中へ消えて、変わりにタエさんが姿を現した。
10年経った今も祖母はばあちゃんではなく、タエさんなのだ。
〇〇〇
店の外に出ると、辺りは桃色一色だった。通りを埋め尽くす桜の木が、風に揺れてる。
ため息が漏れるほど美しい桜吹雪に、私は少しの間うっとりしていた。
店の横に立て掛けている竹箒を手に取り、道に散らばっている葉っぱやら花びらやらを一カ所に集めていく。
そのたびに風がふくもんだから、掃除は一向に進まなかった。
「加代ちゃん、お掃除しとるん?偉いなぁ~」
ニコニコしながら私に話かけてきたのは、文房具屋「あかし」の店主、柴おじちゃんだった。