幸治は、ふと時計を見た。

深夜3時23分。

いつも、布団の中から時計を見ると、決まってこの時間だ。

母の雪乃が使っていた寝室だからだろうか。
それとも、ただ単にこの時間が体に染み付いているだけなのか。

それが何故かは分からないが、ただ幸治はそれを見ると必ず母を思い出す。
料理が苦手だった母。
裁縫が全く出来ない母。
いつも酔っ払って帰ってくる母。
いつも優しい母。
時に険しい顔をして怒鳴ることもあったが、そんな姿にすら愛情を感じていた。

父親は産まれた時からいなかったし、誰かも知らない。

母一人子一人で、一生懸命働く母親の姿を見て、高校を卒業して仕事を始めたら、親孝行でもしてやろうと思っていた矢先の事だった。


ちょうど今から4年前の12月20日。
深夜3時23分。

街は、もうすぐ来る年の暮れと、クリスマスで色めき立っていた。

この時季は、水商売の世界も忘年会等で忙しくなり、仲辻雪乃が家路に着いたのは深夜3時過ぎだった。
いつもは一緒に帰宅する安田も、この日ばかりは日頃の疲労から、1時過ぎには店を後にしていた。

そのまま雪乃は、帰らぬ人となったのだ。

異変に最初に気が付いたのは、安田夫妻だった。

家の外で大きな音がしたので慌てて外に出た所、玄関まであと十数メートルという場所に、着物姿の雪乃が頭部から血を流し倒れているのを発見した。

そして、そのすぐ後ろには黒のBMWが止まっていた。

すぐに民が救急車を呼び、安田は雪乃を撥ねた車の運転席を開いた。

しかし、さぞ動揺しているのだろうと思った安田が目にしたものは、運転席でイビキをかいた30歳くらいの青年だった。


後の警察の調査で分かったことは、雪乃を撥ねた犯人から大量のアルコール度数が検出されたことと、かなりの高スピードを出していたという事だった。

そして裁判の結果は、業務上過失致死罪。

犯人は、3年間の懲役を言い渡された。

人を殺して、たったの3年間だ。