大きめの机と、小さい書記用の机だけが用意された無機質な部屋。
山瀬の向かいには、20歳そこそこの青年が座っていた。
その青年に感じた山瀬の第一印象は、とても犯罪を犯した人間の表情ではない、といった事だけだ。
「吸うか?」
山瀬は、向かいに座る青年に煙草を向けた。
すると青年は、「あ、僕も持ってるんで」と言い、ポケットをまさぐり始めた。
山瀬は小さく溜息をつき、彼に言った。
「阿呆が。自分の持ち物は全部警察で預かってんねん。持ってる訳がないやろ」
山瀬は「ほれ」と言い、青年に煙草を一本投げた。
「仲辻幸治くんゆうんか?」
「はい」
青年は、大きく頷き煙草に火を着けた。
「で、誘拐された子は、仲辻結衣ちゃん」
「はい。僕の姪っ子です」
山瀬は、必死に書類を作る前田をキッと睨んだ。
そして山瀬の目線に気付いた前田は、怯えながら山瀬を見た。
そして山瀬は、再び幸治に目線を戻した。
「君、犯人ちゃうやろ」
幸治は、机をバンと叩き、その瞬間静かな取調室に幸治の怒鳴り声が響き渡った。
「だから、何度も言ってるじゃないですか。僕は、結衣が誘拐されたって聞いて、急いで現場に向かったんや。で、叔母さんを探してたら、警察に声かけられて…」
そこまで言うと、幸治はぜえぜえと息を切らせながら、ドスンとパイブ椅子に腰を落とした。
山瀬は、再び前田を見た。
前田は、自分の怯えを隠すように、上擦った声で幸治に詰め寄った。
「しかし君なぁ。君に似た人物を見たゆう人がおるねん。似顔絵かて書いたで。見てみるか?なかなか似てんで」
「そんな似顔絵なんて…」
幸治は前田から目を反らせた。