風呂から上がった幸治がリビングに戻ると、そこでは民と美帆と、仕事から帰ってきた安田が晩酌をしていた。
「あれ?安田さん帰ってたんだ」
「おう。お!お前随分さっぱりしたなぁ。いいじゃん。その方が似合うよ」
「そう?別におれは何でもいいんだけどね」
幸治はそう言いながら、安田の横に座った。
そして安田の向かいに座る民が「坊ちゃんもビールですか?」と言い立ち上がる。
四人用の食卓を囲む時は、いつもこの配置なのだ。
端から見たら、普通の家族にしか見えないだろう。
しかし実際、この四人は誰一人として血が繋がっていないのだ。
「そういえば安田さんさぁ」
「ん?なんだ幸治」
「今日も、税務署の人が来てたじゃん。うち大丈夫なの?」
安田は、煙草に火を着け言った。
「大丈夫だよ。どうせうちが儲かってるってんで、なんか粗探しでもしようってんだろ」
「そっか。でもそれならさ、いちいちおれが隠れる必要ないんじゃないの?」
「ばーか。何度も言ってんだろ。社長のお前が出て来たらややこしくなるんだよ」
幸治は「そっか。」と言い、落ち込んだようにビールを口に運んだ。
「あ、そうだ!」
幸治は、再び思い出したかのように叫んだ。
「なんだよ、でけぇ声出すなよ」
「あ、ごめんなさい。あのさ、おれが店に戻って来た時、3番テーブルにいたお客さん」
「あ、そこ私が着いてた席だよ」
美帆が嬉しそうに言った。
「それがどうした?」
安田は眉間に皺を寄せた。
彼が眉間に皺を寄せると、どこかのVシネマの俳優のような顔付きになる。
「いやさ、店入った時そいつにガンつけられたんだけど」
その瞬間、三人はどっと笑った。
「なーにが、ガンつけられただよ。お前なんか相手にするかよ」
安田はそう言うと、少し大袈裟に感じる程、机を叩き爆笑した。
美帆は体をのけ反らせ、民は腹を抱え笑い転げている。
幸治は、こういう瞬間が好きだった。
家族の温かさというものを感じるからだ。