こたつに突っ込んだ足は、直に熱を感じ、じんわりと汗ばんできていた。
それでも、こたつから足を抜く事はせず、テレビのチャンネルを変えては、つまらない等と愚痴をこぼし、ため息をつく。
そして日本酒を煽り、再びチャンネルを変える。
今日は、昼過ぎに起きてからずっとこんな様子だ。パジャマすら着替えていない。
あまりの腑抜けぶりに、とうとう痺れを切らした民は、洗い物を終えた手を前掛けで拭きながら、安田に近付いた。
「ねぇ貴方。いい加減着替えたらどうですか?もう7時になりますよ」
安田は、目の下や鼻のまわりを真っ赤に染めた顔を、民に向けた。
「うるせぇよ。たまの休みくらい、ゆっくりさせろよ」
「たまの休みって言っても、今日は大晦日ですよ。今年は明治神宮に行かないんですか?」
安田は、再び退屈なテレビに目を移した。
「誰があんな人込みになんか行くかよ」
民は、毎年行ってたくせに、と言いたいところを我慢し、ソファーに腰を下ろした。
安田は、民と結婚してから今まで、明治神宮への初詣を欠かした事はなかった。
それは、日本の文化を大切にしているとか、一年の祈願だけはしっかりしなければいけないとか、そういった類いの物ではなく、ただ単に安田が、お祭り事が好きだからなのだが。
そして、それは民も一緒だった。
ただ、民の場合は、お守りを納め、また新しいそれを買い、家内安全を祈願する事も重要な事なのだが。
「ねぇ、貴方。本当に行かれないんですか?去年のお守りも、お納めしたいんですけど。須藤さんのお宅にも、ご挨拶に行きたいし」
安田は暫く考えた後「分かったよ」と言い、寝室へ向かった。
勿論、着替える為だ。
民の表情は、一瞬にして晴れやかになり、それは、彼女がどれ程初詣に行きたかったかをも物語っていた。
しかし時刻は、まだ19時をまわったところだ。
またいつ気が変わるか分からない安田の性格に、民はすぐに表情を引き締めた。