「それにしても度胸のある奴だな。今日日、これだけ飲酒の取締が厳しい中で、堂々と飲酒運転だもんな。警察が怖くないのかよ」

「ただの馬鹿ですよ」

幸治は眼差しを松岡の車に向けたまま、座り直した。

「まぁ、本当にただの馬鹿だったらいいんだけどな」

「どういう事ですか?」

幸治は、三井の返答に驚き、三井を見た。

「いや、家の中に盗聴器まで仕掛けるような奴だ。とてもただの馬鹿には思えない。むしろ、君に対しての深い憎しみすら感じるよ」

「たかが盗聴器でですか?」

「だって、なんの痕跡も残さずに家に侵入してるんだよ。民さんが買物に出掛ける時は、庭にある鉢の下に鍵を隠しているそうじゃないか。しかし庭っていったって塀があるから、偶然外から見えたなんて事はありえないだろう。そうなると考えられるのは、事前にしっかり調べて、計画を立てていたって事だよ」

「それは安田さんも言ってました」

三井は自慢げに言った。

「だろ?でも、気掛かりな事があるんだよ」

「なんですか?」

「なんで彼は、幸治君の漢字を知りたがったんだろう。盗聴器じゃ名前は聞こえても、どういう字を書くのか分からない。だから、それを美帆ちゃんに聞いたのは分かるんだけど、一体なんの為に確認したんだろう」

幸治は皮肉っぽく三井に言った。

「それにも、なにか深い理由があるんですかね?」

三井は「そう願いたいね」と言うと、左にウィンカーを出した

そして「おっと幸治君。少し隠れていてくれないか」と言い、真剣な面持ちで松岡のすぐ後ろについた。

どうやら松岡は、天現寺インターで降りるらしい。

ゲートを出て一般道に入ると、幸治は再びしっかりと座り直した。

「ここは、どこですか?」

「白金台だ。高級住宅街だよ。聞いた事くらいはあるだろう」

「はい。有名ですからね」

「あぁ。どうやら彼がお坊ちゃんだってのは本当のようだな。」

その時、松岡の運転する車が左折専用車線に入った。

「幸治君。彼は左折するようだが、僕は逆に、右折するから。君は出来るだけ、彼の行く先を見ていてくれ」

「なんで、ついて行かないんですか?」

「あまり深追いすると、相手にばれる。ここらが潮時だろう」