『ClubBell』では、三井が既にヘネシーを一本空けていた。
しかし、それでも三井は顔色一つ変えずに、今度はバーボンを煽りはじめた。
「三井さん、強いんですね」
三井の隣に座る美帆が、驚いた表情で彼を見ていた。
「まぁね。職業病ってやつかな。ライターっていう仕事に就いてからは、こういうお店で飲む機会が増えてね」
「どうしてですか?」
「接待とか、情報収拾ってやつだよ」
三井はそう言うと、グラスに入ったバーボンをクイと飲み干し、テーブルの上に置いた。
そして、そのグラスを美帆が取り、再びバーボンを注ぐ。
美帆は、それを三井の手元に運びながら聞いた。
「今は、フリーライターをされてるんですよね?その前は何をされてたんですか?」
そう聞かれた瞬間、三井の目は急に虚ろになり、美帆は聞いてはいけない事を聞いてしまったと思った。
「あの、すいません。まずかったですか?」
三井は、はっと我に返ったように答えた。
「いや、全然まずくなんてないよ。前はスポーツライターをやってたんだ。野球雑誌でね」
「野球やってらしたんですか?」
「あぁ、これでも一度だけ、甲子園にも出てるんだぜ」
美帆は、両手を口の前で交差させ「わぁ」と言い驚いた。
「すごいですね。甲子園ですか。どうりで立派な体格をされてると思いました」
三井は「そうかい?」と言うと、バーボンを少し口に含み、自慢げに話し始めた。
「野球は小学生の頃からやっててね。甲子園では3番ショートで、高校3年間で失策なし。ホームランは5本で盗塁は23本。どうだい?凄いだろ」
しかし美帆は、口を半開きにしてそれを聞いていた。
「あ、ごめんなさい。私、野球はあまり見ないんで」
すると今度は安田が席に来た。
「お前、甲子園出たのか?」
「ええまぁ。それより安田さん、お店大丈夫なんですか?」
「もう閉店だよ」
「え、もうそんな時間ですか?」
「あぁ。それよりな、おれは江川からホームラン打ったことあるぞ」
三井は嘲笑した。
「嘘でしょ」
「本当だよ。同郷なんだけどよ、小学6年生の時に2年生だった奴からカキーンとな」
「小学生の時ですか」