分厚いカーテンによって外の光を遮った室内は、電気をつけなければ例え昼間でも、ある程度の暗闇を保ってくれる。

幸治は、寝るつもりはないのだが、布団に包まり目をつぶった。

今更、辛い思い出を再び蒸し返すのか。

そんなことをして、再び辛い日々を送るのなら、むしろ今のまま平穏に暮らしていきたい。

しかし、もし母の死が本当に暗殺であったのなら…

そう考えると、幸治は憤りを感じた。

その犯人のせいで、大好きな母親を殺され、人生を狂わされた。

犯人が憎い。

今まで、この怒りの矛先は三井だった。

しかしそれが今では、まだ見ぬ犯人に向けられていることに、幸治自身気が付き始めた。

しかし、それでも尚気が進まないのは、やはり折角忘れ始めた辛い思い出を再び蒸し返す覚悟が出来ていないのだ。

幸治は深く溜息をつき、寝返りをうった。

そしておもむろに目を開くと、暗闇の中にうっすらと人影が見えた。

それは、部屋の入口のすぐ前に立っているのだが、まだ暗闇に慣れない幸治の目には、一体誰が立っているのか分からない。

それはだんだんと幸治に向かって近付いてくる。

一歩一歩、ゆっくりと歩き近付いてくる。

そしてそれが、とうとう幸治の目の前に来た時、やっとその正体がなんなのか幸治は気付いた。

美帆だ。

美帆は、幸治の横に腰を下ろすと、入口の方を向いたまま言った。

「ごめんね。安田さんと話してたの聞いちゃった。辛いよね。で、どうするか決めた?」

幸治は再び寝返りをうち、美帆に背を向けた。

「まだ」

「そっか。でもさ、私思ったんだけど、いま動かなきゃ一生後悔すると思うよ。この先もずっと、本当の犯人が誰なのか、なんでお母さんが殺されなければいけなかったのかを知らないまま生きていかなきゃいけないんだよ。でも、もし真相を掴むことが出来れば、幸治の中でなにかが吹っ切れるかもしれない」

「分かったような口聞かないでくれ」

「でも…」

そう美帆が言いかけた時、幸治が上半身を起こし、声を荒げてそれを遮った。

「おれだって分かってるんだよ。でも、そう簡単に切り替えられないんだよ。やっと忘れかけてたんだぞ。なんで今になって出てくるんだよ」