安田はホットコーヒーを啜り、煙草に火をつけた。

「あぁ。だがな、今回はおれに用があって来たらしいんだ」

幸治は、まだ驚きと動揺を隠せないでいる。
冬だというのに、腋の下からじっとりと汗が滲み出てくるのが自分でも分かった。

「安田さんに?一体なんの用で?」

安田は、幸治の心の傷をこれ以上深くさせないように、慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと昨夜の出来事を話し始めた。

顔色こそ良くないが、幸治は安田の話しを真剣に聞いた。

そして話しを聞き終えた後、幸治に一つの疑問が生まれた。

しかし、それを安田に問い質したところで答えが返ってくるはずもないことは、幸治もよく分かっていた。

それは幸治だけではなく、安田と三井の中でも一番の疑問だからだ。


一体、誰がなんの為に、仲辻雪乃を殺したのか。

そこまで周到に計画された殺人に、一体なんの意味があるのか。

幸治は考えた。

これが突発的な犯罪でないことは確かだ。

しっかりと緻密に計算され、的確にターゲットを殺害した。

しかしターゲットは、有名な歌手でもなければ、大物政治家でもない。

一般人に向けられた暗殺だ。

そして安田が優しい目で、幸治を見つめ言った。

「今日の夜、三井はまた店に来る。もし、もしお前にまだ奴と会う覚悟がないんだったら、今日は店を休め。どうするかは、お前の判断に任せるから。今更、過去の辛い思い出を蒸し返すのは辛いだろうけど、ゆっくり考えろ」

言い終えると、安田は再び新聞を手に取り読み始めた。

幸治は「わかった」とだけ言い立ち上がると、一人になって考えたく、寝室に戻った。