昨夜は早くに仕事を終え布団に入った為、随分と朝早くに目が覚めた。

暖房をかけっ放しで寝ていた為、喉が乾燥してしまい水分を取りたくなった。

しかし、どうにも布団から出る気分になれず、そのまま布団に包まり再び目をつぶった。

どれくらいの時間が経っただろうか。

なにもせずに、ただ布団に包まっていると、色々と考え事をしてしまい、それに押し潰されそうになる。

その重圧に負け、幸治は目を開け時計を見た。

しかし、さっき時計を見てから、まだ5分しか経っていない。

時間が経つのがとても遅く感じ、幸治は時間にも重圧を感じるようになっていた。

諦めた幸治は、小さく溜息をつくと、布団から出てリビングに向かった。

リビングでは、安田がコーヒーを片手に新聞を読んでいて、民は台所に立って朝食の準備をしていた。

美帆がいないのは、まだ寝ているからだろう。

「あら坊ちゃん。おはようございます」

幸治に気付いた民が言った。
幸治は「おはよう」と民に返すと、安田の向かいに座った。

「おう幸治。よく眠れたか?」

「うん」

幸治は力無く返事をした。
「なんだよ、元気ねぇなぁ。」

安田はそう言うと、新聞から目を離し幸治を見た。
俯いてはいるが、顔色も良く特に体調が悪いようには見えなかった。

まだ昨日の事を引きずってやがる。

そう思った安田は、時計に目をやり言った。

「おい民。もう9時だぞ。美帆起こさないでいいのか?」

「あら大変。もうそんな時間?起こしてくるわね」
民はそう言うと、バタバタとリビングを出て階段を上っていった。

そして、安田は再び新聞に目を戻し言った。

「幸治が美帆より早く起きるなんて珍しいなぁ」

「そう?安田さんこそ早いじゃん」

「おれか?年取ると早起きになるんだよ」

安田はそう言うと、大口を開け笑った。

しかし、幸治はそれを見ようともしなければ、表情も崩さない。

安田はそんな幸治を見ると、読んでいた新聞紙をたたみテーブルの上に放り投げた。

「そういえばなぁ、昨日の夜三井に会ったぞ」

幸治は、三井という名前を聞いてに驚いた表情をみせた。

「三井?もう来ないって言ってたんじゃないの?」