「そう言えば安田さん。安田さんは、最初に僕を発見した時のこと覚えてます?」

「覚えてるよ。いびきなんか、かきやがって」

「その時、僕はシートベルトしてました?」

「シートベルト?そんなもん…」

安田は考えた。当時の記憶を一つずつ丁寧に手繰り寄せ、それを頭の中で整理した。

それを見ると、三井は自信に満ちた表情で言った。

「してなかったでしょ?それは警察の現場検証でも証明されています。そして、現場ではブレーキ痕も発見されています。きっと雪乃さんを轢いてしまった後のものでしょうけど。結局、警察の調べではその後、僕は衝撃で意識を失ってしまったとされています。でも安田さん。あの時僕は、怪我をしていましたか?」

安田は、頭を抱えて俯いた。自分の、いや全ての過ちに気付きかけてきたのだ。

「いや…」

三井は、更に自信を持って話を続けた。

「おかしいですよね。さっきの急ブレーキでも、スピードは40キロしか出ていません。でも、現場のブレーキ痕ではあの狭い道で80キロは出ていたんじゃないかと言われています。人を轢いた後、ハンドル操作を見失ってシートベルトをしていない人間が、急ブレーキをかけて無傷でいられるとは、とても思えないんですよね」

「だから自分はやってないと?」

「いや、それだけではありません。自分がなんであそこに居たか分からないんですよ。」

「は?」

「いやだから、僕はその日、自宅で友人と酒を飲んでいたんです。なのに気が付いたら現場にいた」

「それは、てめぇで運転してあそこに行ったんだろ」

「でも僕の家は目黒区ですよ」

「じゃあ、そのダチを家まで送った帰りとか…」

三井はそこまで聞くと、人差し指を安田の前で立て制止した。

「その友人は、僕の住んでいるマンションの下の階の人間です」

「じゃあまさか…」

「えぇ。僕は、誰かにハメられたんです」

「じゃあ、雪乃が死んだのは殺人だって言うのか?」

三井はコクっと頷くと、再び車を走らせ安田の家の前で停めた。

「じゃあ、一体誰が雪乃を殺したってんだよ」

「それは分かりません。だから、調べなければいけないんです。明日またお店の方にでも伺いますんでその時に」