「どこ行くんだよ」

「別に目的なんて、ありませんよ。そういえば幸治君は事件のあとすぐに兵庫県にある叔父さんの家に行かれたそうで。何故今頃になって戻って来たんですか?」

「お前には関係ないだろ」

「そうですね」

三井はそう言うと、鼻を擦り視線を落とした。

その時、信号が黄色から赤に変わった。

三井には信号が見えていないのか、スピードを緩める気配がない。

「おい、お前!信号!」

「え?あ、やばい」

しかし、三井が気が付いた時には、車は既に大きな交差点に差し掛かろうとしていた。

三井は慌て、ブレーキを力いっぱい踏み付けた。

そして、キーーという甲高いブレーキ音と共に、車は停止した。

安田は、咄嗟に左上あった手摺りに掴まり、足を踏ん張った。

しかしそれでも、シートベルトが腹部に減り込み、更には突然の衝撃で首に痛みを感じた。

かろうじて、交差点の手間で停まることが出来たのが不幸中の幸とでもいったところか。

三井は、極度の緊張のあまり唾を飲み込み、鼻息を荒げて言った。

「シ、シートベルトつけてて良かったですね」

「馬鹿やろう!事故ったらどうすんだよ!」

「大丈夫です。もう二度とこんなマネはしませんから」

安田は気分を落ち着かせる為、ポケットから煙草を出し、口にくわえた。

そして窓を開けると、外から冬の渇いた冷たい風が入り込んで来た。

「ふざけやがって」

「ふざけてなんかいないですよ。あ、安田さん煙草」

「うるせぇ。死ぬかと思ったんだ。一本くらい吸わせろ」

「分かりました」

三井はそう言うと、再び車を走らせ、元いた場所に戻った。