サユちゃんは、険悪なムードの俺たちを交互に見る。
「信也くん。……サトルくん」
さまよった視線は、俺の方を向いて止まる。
サユちゃんはまるで助けを求めるように、俺を見つめ続けた。
やっぱり。サユちゃんは困ってる。
予想した通りの状況に、助け舟を出してやりたくて。
でも、夏目との勝負の結果が俺にそれを許さなかった。
「……ごめん。俺行くよ」
懇願する視線から逃げ出すように、俺は目を伏せ、そして今きた道を戻る。
「サトルくん! 私を探してたんじゃないの」
「急ぎじゃないんだ。ごめん、邪魔して」
背中に告げられる彼女の叫びに、心にもないことを答えて、俺は走り続ける。
サユちゃんは追ってこない。
追ってきたところで、彼女の鈍足で俺に追いつくはずがない。
「サユちゃん先輩、待って。俺との話が終わってない」
続けられた夏目の言葉を耳にしながら、俺はなんだか打ちのめされたような気分になった。
なんだかんだ言ったって、勝負がついてすぐ告白できるくらい、夏目は思いつめてたってことだ。
先に言ったほうが勝ちとか、そういうわけじゃないけど。
こんな逃げ出したような自分よりは、夏目のほうが格好いい。
サユちゃんは夏目に、なんて答えるんだろう。
知りたいと思うけど、それを知る権利もないような気がした。