サユちゃんに頼られたい。その願いはまだ変わってはいないけれど。
頼ることで彼女がこれほど喜んでくれるなら。
それはそれでいいのか、なんて思えてきた。
「サユ、サトルのお題見たか?」
「え?」
ニヤニヤする木下にキョトンとした顔でサユちゃんが小首を傾げる。
「ちょ、木下……先生。ほら用具の仕事しましょう」
サユちゃんに本当の事を告げようとする木下を俺は無理矢理追い立てる。
木下は頭をくしゃくしゃ書きながら、小声で俺に耳打ちした。
「お前、これ教えなきゃ意味ないだろ」
「俺は負けたんだから告白する権利ありませんよ」
「ばっかだな。負けるの分かっててちゃんとサユを連れてくるところが愛じゃないか」
そこまでの意図が木下にはあったのか?
もし夏目がこの紙をとったとしたら、迷わずサユちゃんのところに言っただろうか。
「とにかく、頼むから放っておいてクダサイ」
「ハイハイ」
木下は何故か、嬉しそうに笑う。
俺はそんなやつを追い立てながら、こっそり後ろを振り向き、団席に戻っていく夏目とサユちゃんを見た。
勝負は勝負。
夏目は三位でゴールしたんだから、奴との勝負は俺の負けだ。
あいつが告白するというのなら、指をくわえてみているしか無いのだろう。