両手でずいと押し出されて、俺は仕方なくサユちゃんのもとに向かう。
恥ずかしくて顔があげられない。


「……ごめん。一緒に走って」

「う、うん?」


この紙だけは見せられない。
俺は彼女の手を引っ張り、一緒に走りだした。

とはいえ、彼女は自他共認める運動音痴で、走る速度は当たり前に遅い。
後から紙をとったはずの人たちは次々ゴールし、俺とサユちゃんはビリでゴールした。

ゴールではスターターだったはずの木下まで待ち構えていて、俺の紙を受け取ると、ウンウン頷いて「オッケーオッケー」と背中を叩いた。


「なんて書いてあったの?」


首をかしげる彼女に、俺は誤魔化す為に心にも無いことを言ってしまう。


「……運動音痴の女の子?」

「ひ、ひどーい!」


サユちゃんは一気に真っ赤な顔になって、俺の背中をポカポカ叩いた。

でもちっとも痛くない。
小さくて可愛い一つ年上の女の子。俺の一番大切な女の子。


「一緒に走ってくれてありがとう」

「え? や、ルイちゃんに頼まれたし。それに」


サユちゃんは一度口ごもると、懇願するような眼差しを俺に向ける。


「私、ちゃんと役に立った?」

「うん。すっげー助かった」

「なら良かった」


ぱあっと顔が晴れ渡って、心がふわりと浮き上がる。