「夏目、サトル、ちょっとこい」


木下が、指だけで手招きする。俺と夏目が顔を見合わせて近寄ると、俺たちだけに聞こえるくらいの音量で話した。


「いいか。お前らの順番は最終レースだ。コースからまっすぐ行ったところの紙をとれ」

「でも紙なんて速いもん順じゃん。選べねーよ」

「大丈夫だよ。サトルなら一番でそこまで行ける。夏目も現役高校生なんだから、そのへんの大人には負けないだろ?」

「なんだよその運任せ的なやつー」


夏目は不満タラタラだが、俺はもっと別のことが気になった。


「なぁ夏目」

「なんだよ、サトル」

「俺とお前が勝負するのは別にいいけど。サユちゃんは賭けないから」

「なに言ってんだよ今更」

「サユちゃんはモノじゃない。彼女の気持ちは俺達じゃ決められないだろ」


夏目は神妙な顔で俺を見て、ちっと舌打ちを漏らした。


「なに格好付けてんだよ」

「そんなんじゃねぇよ。ただ」


彼女は人の言葉を受け入れる。
角が立たないように、周りがいつも笑っているように。
気を使いながら生きている。

好きでもない男に気持ちを告げられたら、彼女はとても困るんじゃないかと思うんだ。


「とにかく、賭けの内容は変更だ。賭けるのは告白する権利だけ。俺が勝ったらお前は彼女に告白しちゃダメだぞ」

「じゃあ俺が勝ったら、サトルも告白しないんだな」

「俺はどっちにしろしない。……まだ早いかなって思ってるし」

「なんだそりゃー! 煮え切らない男だな」