100メートル走は一学年から順番に行われる。

そうそうに走り終えた俺。当然ながらタイムは夏目より上だ。

そういえば、勝負の話はどうなったんだろう。これで決めてくれるなら圧勝だったのに。


 やがて一年が終わると二年の番になる。この時、俺がゴールテープの担当になった。


 スタート地点のサユちゃんは、ゴールにいる俺をちらりと見ると眉を寄せて目を逸らした。

嫌なのか?
俺に見られているのはそんなに?

じっと見つめていても、外された彼女の視線が俺のもとに戻ってくることはなく、俺は落ち込んだまま、手元のゴールテープをギュッとに握りしめた。


 空気を切り裂くようなパンという音と、硝煙の匂い。

 それと同時に走りだした彼女はやはりボテボテ走りで、順位はドンケツ。タイム係に聞いてみなきゃ分からないけど、20秒超えているかもしれない。
それでも全速力なのだろう。ゴールした彼女は息を荒くして汗だくになっている。



「サユちゃん、お疲れ」

「はあ、はあ」


俺の小さなねぎらいは聞こえなかったのか、彼女は息を切らしながら、俺の方を見ること無く自分の席へ戻っていく。

次の走者が走りだしても、俺は彼女の後ろ姿を見ていた。


こんなに近くにいるのに、君の声が聞こえない。