夜の7時半。中津川家は団欒の時間だ。
「でねぇ。そのときに山田くんがおならしてさぁ。もうなんつーの。クラス中シーンってなって。ほらあれ、なんだっけ潮がどうこう」
「……潮が引くように」
「そう、潮が引くように皆ドン引きー」
団欒の中心にいるのは、おしゃべり大好きの妹・ルイ。まくし立てるように話すルイの話をにこにこして聞いているのが父さん、半分くらい聞いていないのが母さん、フォローを入れているのがイッサ。
そして俺は……。ただいま絶好調に落ち込んでいるのでそれどころじゃない。
「はあ」
俺が先程から止めどなくついている溜息ももう40回目くらいか?
「ちょっとぉ、お兄ちゃん。聞いてるの?」
ルイが眉根を寄せて俺を睨む。
ホント表情豊かだなコイツは、イッサなんていつも淀んだ目をしているのに。あいつは何かに取り憑かれてるんじゃないかとたまに心配になるくらいだ。
「聞いてる、聞いてる。学級会での議題がおならだったんだろ?」
「違う! 議題を話そうとした山田くんがおならしちゃった話」
「山田だって悪気は無いんだ。そんな責めるなよ皆して」
「だからぁ。山田くんがはははって笑っちゃえばすぐ過ぎてったのにさー。なんかアワアワしてるからさー、突っ込んでやったんじゃん」
「ひでぇ女だなぁ。お前も」
傷口に塩塗りこむような真似するとか、案外新見タイプなんじゃねぇのか。