「おいサトル怒鳴ることないだろ。なぁサユ……」


軽く笑ってこの場を収めようとした木下も、サユちゃんの様子を見て口ごもった。


「……ご、ごめん。サトルくん」


頬を伝う、綺麗な滴。
昔、俺が泣かせてしまった時の顔と一緒。

雷鳴が駆け抜けるように、強烈な罪悪感が俺を襲った。


違う。泣かせたいんじゃない。違うのに。



「サユ、泣くほどのことじゃないだろ」

「でも。……ごめんね」


慰める木下と堪えようとしてそれでも涙を止めれずにいるサユちゃん。
そんな姿に打ちのめされて、俺はもう見ていられず、逃げ出すように踵を返した。


「おい、サトル、どこに行くんだ」


木下の静止も無視して教室を出る。
廊下に出た途端、和奏先輩と新見に出くわし、恥ずかしさに顔をそらす。


「中津川くん?」

「サユ、遅いよー。……ってあれ? ちょっとー! 木下先生なんでサユを泣かせてんのよー!」


教室を覗きこんだ和奏先輩がそう言うけど。

違うよ。泣かせたのは俺だ。

またやってしまった。
泣かせたくない、大切にしたいってそう思っているのに。


感情をセーブできなくて泣かせてしまう俺は、今もあの頃と変わらない。
情けないほどのガキンチョだ。