「たまたまその時、サユが職員室にいたからサユが言われたんだけどさ。コイツ、『赤ベコが駄目なんていう理屈はおかしいです』なんて言ってさ。その場で高木先生を言いくるめたんだよなぁ」
「な……」
なんだよそれ。あの般若のような顔の高木に、サユちゃんが食って掛かって行ったってことか?
「絶対に高木先生が納得出来るようなものを描きますからって言ってさ。イヤ、格好良かったぜ? サユ」
「あはは。ありがとー、センセー」
あははって。呑気に笑っているけど、それって結構大変だったんじゃないのか?
そういえば、四字熟語を変えたり遅くまで残って描いたり、サユちゃんは密かに色々変更していた。
でもいつも笑っていて、裏にそんな事情があったなんて俺は全然気が付かなかったのに。
「なんで教えてくれないんだよ、サユちゃん。俺……実行委員なのに」
「だって。ほら、下絵は私に一任してくれるって言ってたし。サトルくん、すごく忙しそうだったし。うまくやれる自信もあったしね」
サラリとサユちゃんは笑って言うけど、俺の中の嵐は収まらない。
そうじゃないんだ。
サユちゃんをそんな騒動の矢面に立たせて。
すべて丸く収まってから知らされるってどうなんだ。
俺はサユちゃんを守りたいのに。
まるで俺のほうが守られてるみたいな。
「……うまくいったらそれでいいって訳じゃないだろ!」
思わず飛び出してしまった大声に、サユちゃんの表情が変化する。
眉がハの字になって、口がパクパクと言葉を探しているように動き、やがて瞳が潤んできて。
――泣かれる。