体育祭準備は着々と進む。
看板書きも最終段階で、最後の手直しをサユちゃんがしているので俺達はすることが無い。他のメンツは応援歌練習に行ったけれど、俺は適当に理由をつけて理科準備室に残っていた。

 一心不乱に描くサユちゃんを黒板の辺りから見つめる。赤のペンキをつけたかと思うと、後ろに下がって全体を確認して、次は白のペンキのついた筆を持つ。小さな体が、看板の周りを回るようにしてせわしなく動く。


「うん。こんな感じ。どう? サトルくん」


 胸を張って言うサユちゃんの手にはペンキがついてしまっている。早く洗わないととれなくなるんじゃないかな。


「あーうん。すげー。赤ベコなのにカッコイイ」

「うん。木下先生をイメージして描いた」

「木下?」

「ほら、和奏が言ってたじゃない。木下先生描けばいいって」


確かに言った。でも俺達は馬鹿にして言ってたんだけど。

サユちゃんにとって、木下はこんなイメージ?
マヌケな姿なのに格好良く見えるってどんだけあいつのこと好きなんだよ。


「サユちゃ……」

「おーい。サユはここか?」


廊下から聞こえてきたのは、木下の声だ。


「センセー。ここ。ほら、出来たよ。看板」

「おう、……なんだサトルもいたのか。応援歌練習の奴ら、なかなかサトルが来ないってブーブー言っていたぞ」