たくさんの人が一気に電車から下りたので、俺は少しゆっくり歩いた。先を急ぐ人波は流してしまった方が早い。
俺とサユちゃんは並んで歩きながら、体育祭の話で盛り上がっていた。
「……サユ?」
改札を出る直前、彼女の名前を低い声が呼んだ。後ろを向くと、スーツ姿のおじさんがいる。
「お父さん」
「どうしたんだ、今日は遅いじゃないか。……それに」
おじさんからの視線が痛い。明らかに不審がられている。
そりゃそうだ。おじさんは俺の家がもうひと駅先ってことも知ってるし。どうしてここにいるんだよって話だよな。
「サトルくん……だよな?」
確認するように言われて、唾を飲み込んで顔をあげる。
「はい。先日はお邪魔しました」
「君とサユって……」
「お父さん! サトルくんは暗くなったから送ってくれたんだよ」
おじさんの追求を遮るようにサユちゃんが捲し立てる。
「ほら、体育祭の応援ボード描くって言ったでしょ。それやってたの」
「俺、二組連合の実行委員なので」
言い訳のように付け足すと、おじさんは小さく笑った。
「なるほど? わかったよ。わざわざありがとう。ここからは俺と一緒に帰るから大丈夫だ。遅くまで悪かったね」
「……いえ」
「サトルくん、ありがとうね」
そう言って歩き出すサユちゃんとおじさんを、俺は時々振り返りながら眺めた。
最初は俺を気にしていた様子のサユちゃんも、徐々におじさんとの話に夢中になっていく。
その安心したような表情は、俺の胸をチクリとさした。
畜生。未だにアンタが一番なのか。
過去の思い出と相まって、打ちのめされたような気分になる。
こんなチャンス、滅多にないのに。
……あと少しだけでも、一緒に居たかったのに。