駅に着いて、定期で改札をくぐる。
ここから二駅乗ったらサユちゃんの最寄り駅で、その次が俺の最寄り駅だ。
彼女の最寄り駅のアナウンスが流れると、サユちゃんはそわそわと鞄を抱え直す。
「私、次なの」
「俺も降りるよ。暗いから送るって」
「大丈夫。走ればすぐだから」
「でもサユちゃん走れないじゃん」
ボテボテ走りを思い出して笑うと、顔を真っ赤にしたサユちゃんが俺を叩く。
「意地悪! 走れるもん。……速くないけど」
「それじゃ、痴漢とかにあったら逃げられないだろ。いいんだよ。俺、帰りはランニングするから遠いほうがいい」
「お家まで? 何キロあると思ってるの、サトルくん、倒れちゃうよ」
驚きで目を丸くして、口元を手で抑える。
俺はね、サユちゃん。
遠回りなんてなんでもないんだよ。
せっかく君と一緒にいるから、この時間を長続きさせたいだけなんだ。
「大丈夫」
胸を張ってそう言うと、サユちゃんはキョトンと俺を見上げる。
「俺、男だから」
格好付けて言ったつもりだけど、言ってからちょっと恥ずかしくなった。
彼女をそっと覗き見ると、サユちゃんも何故か赤面していた。
聞いてる方まで恥ずかしい言葉だったか。
「……じゃあ、お願いする」
「うん」
やがて電車は止まり、俺達は外の空気の中へと足を踏み出した。