「……サユちゃん、俺」
「ん? なあに」
サユちゃんが好きなんだ。
そう言いそうになる自分が怖い。
落ち着け、落ち着けよ俺!
和晃も言ってたじゃないか。タイミングが大事だって。
今俺が告ったところで、彼女の頭の中は木下で一杯なんだし。もっといい時期を狙って……。
とはいえ、良いタイミングって一体いつだよ。
妙に開いてしまった間を取り繕ろうと、俺が振った話題は絵本の話だ。
「……絵本は嫌いじゃないよ。むしろ大好きだった。昔サユちゃんが読んでくれたから」
「本当?」
ぱあっと晴れわたる彼女の表情。
彼女を笑わせることができるのは、今の俺じゃなくて昔の俺なのか?
「この間さ、掃除してたら一緒に描いた絵が出てきたんだ」
「え? 一緒にって。そんな昔の?」
「そう。天使の絵。うちの母親不精だからさ。要らないもの貯めこんでるような部屋があったんだよ。そこ掃除したら出てきた」
「すごい! 懐かしいね」
「俺のがすげぇ下手くそで恥ずかしくなった」
「あはは」
サユちゃんが、楽しそうに俺の傍で笑う。
見ていると、嬉しくなってくるのと同時に、胸の奥で何かが疼く。
悔しいけれど今の俺と彼女を繋ぐものは、やっぱり昔の思い出しかない。
――――笑って欲しいんだ。
たくさんの彼女の表情を知っているはずなのに、俺の脳裏に張り付いてしまっているのは、サユちゃんの泣き顔で。
あの涙を止めたくてやきもきした気持ちとか。
自分が泣かせてしまった時の苦い気持ちとか。
未消化なままずっと自分の中に残ってしまっていて。
彼女の表情が陰ると、それだけで居てもたっても居られない気持ちになる。