時間にして三十分くらい経っただろうか。サユちゃんはようやく鉛筆を離した。
既に外はとっぷりと暮れている。


「帰ろう。送るよサユちゃん」

「うん。ありがとう。じゃあ、駅まで一緒にいこ?」

「家まで送るよ」

「でも、サトルくんも遅くなるし」


それでも送りたいんだよ。
ここまで言ったら、告ってんのと同じになるのかな。


「大丈夫。散歩みたいなもんだし」

「でも……」


まだ渋るサユちゃんを急き立てて、片付けを終え学校を出る。
陸上部の奴らはもう帰ったらしく、校庭はサッカー部の独壇場になっている。照明の下でやってる姿はなんとなくプロっぽく見えて格好いい。


「サトルくん、サッカーも好きなの?」


じっと見ていたからか、サユちゃんが俺を覗きこむように聞いてくる。


「うん。陸上じゃなかったらサッカー部もいいなって思ってたんだ」

「昔は、キャッチボールの話よくしてたのに」

「そんなこともあったっけ。野球も嫌いじゃないよ。でも走るほうが今は好きかな」

「へぇ。そっか。スポーツ少年になったんだねぇ」


ふふ、と笑う彼女の瞳に映るのはやっぱり昔の俺なのだろうか。
まだガキで、一人じゃ何にもできなくて、サユちゃんを守るのに泣くことしか出来なかった自分。
でかくなれて嬉しかったのは、これならちゃんと好きな女の子を守れるって思えたからだ。