「文字変えたんだ」
「あのままだと先生からOKが出ないから」
「聞いてみたの?」
「うんまあ。それに、先生方の性格は掴んでるから、だいたい分かる。木下先生なら多分大丈夫だけど。サトルくんとこの担任も三年生の担任もお固いので有名だからねぇ」
また木下かよ。
彼女の口からあいつの名前ばかりが出てくることにイラつく。
……って、これじゃ昔の二の舞いになってしまう。
サユちゃんを泣かせたくない。
くだらない嫉妬で傷つけるようなことはもう二度としたくない。
イライラを唾と一緒に飲み込んで、彼女の傍に近づく。
「でも、もう暗いし帰ろうよ。俺、送るよ」
「うん。……でももうちょっと。明日は委員会があって出来ないから」
「じゃあ俺見てていい?」
サユちゃんは一瞬キョトンという顔をする。俺はキャンバスに近寄って彼女の描いた先を目で追った。
「背景には何が入るの?」
「えっと、色を分けたいからラインを入れて……」
先を促すと、サユちゃんはどんどん鉛筆を滑らせていく。それは、俺では絶対に引けないような、伸び伸びとした筆使いだ。
「サユちゃん、上手だね」
「一応、美術部だから」
えへへ、と笑って彼女は続きを描く。
やがて集中してきたのか、言葉も少なくなり、彼女の視線がキャンパスの先へ先へと動いていくのを俺は黙ってみていた。