それから数日後。
部活を終えて、校舎を仰ぎ見る。最近美術室の明かりを見るのが癖になってしまった。しかし大概、陸上部のほうが遅くまで残っていることが多く、三階の美術室はいつも真っ暗だ。

 今日はふと気になって、二階の理科準備室の方を見た。するとまだ電気が付いている。


「サトル帰ろうぜー」

「ごめん。俺ちょっと用事」

「え? おい」


颯にそう告げ、校舎へとまっしぐら。
普通理科準備室なんて放課後に使うことはない。自然科学部は理科室を使うけど、あそこは週三しか活動してないから、今日は違うはず。
勢い良く階段を駆け上がり、ノックもせずに扉を開く。


「きゃあああっ」


その途端、聞こえてくるのは怯えたような叫び声。


「俺だよ」


「さ、サトルくん?」


教室には、大きなキャンバスに向かって鉛筆を走らせているサユちゃんが居た。
突然入ってきた俺に驚いたのか、眉は八の字になり、体をこわばらせて隅の方で小さくなっている。俺の姿を確認すると、ホッとしたように緊張を緩めた。


「びっくりしたよぉ」

「ごめん。明かりがついてたから。まさかまだ残ってるのかって思って」

「調子いいから一気に描いちゃおうって思って」


ようやく砕けたように笑って、彼女はキャンバスを見せてくれる。
まだ鉛筆書きの、間の抜けた感じの牛の絵だ。
しかし四字熟語は『不撓不屈』へと変わっている。