それに。
ふと窓の外を見ると、アホな体育教師が外で騒いでいる。
それをひやかして笑っているのは、サユちゃんをはじめとする二年二組の女子だ。
……サユちゃんは今、木下が好きなんだよな。
だから焦って告白したってフラれるのは目に見えている。
せっかく話が出来る距離まで近づいたんだ。
ここで焦るよりは、もっと時間をかけてサユちゃんの心のなかに入りこまねば。
大体、木下だって変な期待持たせなきゃいいのに。
サユちゃんが泣くところなんて俺は見たくないぞ。
まあ、……早く振られては欲しいけど。
でも彼女が泣くと思ったら居てもたってもいられなくなくなる。
“ガマンしないで泣いて欲しい”
昔の俺が彼女に伝えたその気持ちは変わってないけど、次に彼女が泣く時にはちゃんと傍で支えられる自分になっていたい。
そのまま授業開始のチャイムが鳴る。
席に戻る直前に見た彼女は、校庭の中央に向かって走りだす一団の中でも格段に遅く、動きもボテボテとしていて。
「……ぷっ」
悪いけど笑えるくらいフォームがおかしい。
笑いをかみ殺している俺を不思議そうに見るのは夏目。
「何笑ってんだよ、サトル」
「いや、なんでもない」
「なんだよー。校庭? あ、サユちゃん先輩だ。相変わらずかわいいなー」
「サユちゃんって、中学の時もあんな?」
「ああ、運動オンチだったな。ハードルを全部倒したっていう伝説も残ってる」
「マジ? あはは」
腹を抱えて笑うと、教室に入ってきた教師が俺を睨む。
「ほらそこの二人、座れ」
「へいへい」
そうか。
サユちゃん運動は苦手だったんだ。保育園の時も足は遅い方だと思ってたけどそこまでとは。
完璧と思っていた彼女の意外な側面を見て、俺の心は妙に温かくなった。