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 女生徒には馬鹿にされている印象の強い木下だったが、部活になるとその姿は豹変した。


「ダッシュ、後30回」


基礎トレの後のスタート練習。やらされていることは全体的に地味なことが多いが、結局体を作る基本ってのはそこなんだよな。
色々不満はあるが、結局それが分かっているから黙らざるをえない。例え赤ジャージが鬼のように見えても。

だけど心のなかでは反抗したい。今日からコイツのアダ名は赤鬼にしよう。


「ぷはー、キッツ」


颯が30回ダッシュを終えて汗を拭く。それでもまだ余裕あんじゃん。俺は今声が出ないぞ。


「よし、しっかり汗ふいて水分補給しろよー」


赤鬼が騒いでいる。畜生、こうやって見るとやっぱり教師で大人だ。格好いい……とまでは思わないけど、年上好きのサユちゃんが懐くのは仕方ないことなのかな。


「おい、サトル」

「なん、……すか」

「はは、お前口回ってないぞー」


満面の笑みを浮かべて木下がやってくる。そして馴れ馴れしく俺の肩に腕を回した。
やめてくれ、汗かいてるんだから気持ち悪い。


「お前、サユが好きなの?」

「なっ」


いきなりのつっこみに、カッと顔が熱くなる。


「いいからいいから。みなまで言うな」


木下はさも分かったように頷くと、校舎の三階の北端を指さしこっそりと耳打ちをした。