「うん。絵本とか。よく読んだよね」
クリクリした目で見られると心臓が落ち着かない。それに加えて、颯のバカにしたような目つきとか、木下のいやらしい視線とかが俺に集中していて、なんかスッゲ焦るんですけど。
「今はあんまり読まないかな。漫画ばっか」
恥ずかしさもあってそう言うと、サユちゃんは首を更に傾けた。
「……そう、なんだ」
「あ、でも」
サユちゃんと読んだあの絵本のことは忘れてないよ。
そう言いたいけど、今ここじゃ言えねぇ。
「……部活頑張ってね。さ、和奏(わかな)行こう」
取ってつけたようにそう言って、サユちゃんは先日も一緒だった女生徒を連れ立って行ってしまった。
あの人は和奏先輩っていうんだな。
「サユちゃんの部活、聞かなかったな」
ポツリ、そう言うと木下がニヤニヤしながら俺を覗きこむ。
「サユは美術部だぞ。放課後は図書室か美術室かどっちかいけば捕まると思うぞ」
うんうん頷きながら、チラチラと俺に視線を投げる。
多分『俺って生徒思いのいい先生』とかご満悦なんだろうけどさ。
俺はそんなにサユちゃんの動向を知り尽くしてるアンタに嫌悪感しか感じねーんだけど。
アンタおっさんだろ。
可愛い生徒に鼻の下伸ばすなよ。
あーもう嫌だ。なんでこんな奴が顧問なんだ。
「さあ、明日に向かって走ろうぜー」
「先生、それ熱すぎてダサい」
颯のツッコミに頷きながら、俺は彼女が消えていった廊下をじっと見つめた。