「髪も目もクリクリしててねぇ。こーんなに大きくなっちゃうなんてびっくり」
背伸びをして俺の頭に手をのばす。そう言われてみれば、サユちゃん随分小さいな。俺、今170センチだけど。サユちゃんの頭は、肩ぐらいか? ってことは150センチくらい?
「サユちゃんは小さくなったね」
「ひどーい、小さくはなってないよ!」
「だって、昔は俺のほうが見上げてたのに」
ムキになって向かってくるサユちゃんの手を掌で受け止める。
あ、なんか。いいなこの感じ。
俺とサユちゃんの間にあった時間の壁が少しずつ溶けてなくなるようなそんな感じ。
「そうかそうか。お前たちはラブい関係なわけだな」
おっさん臭い口調で木下がそう言い、俺とサユちゃんは互いに沸騰したように赤くなって手を離した。
「や、な、何いってんのセンセー」
「ば、あの」
多感なお年頃なんだから余計なこと言うなよー!
折角のいい空気感がすっかりガチガチになっちまったじゃねーか。
「おやおや、照れちゃってねぇ。くふふ」
まるで近所のおばちゃんみたいな口調で冷やかすこの阿呆な教師を、本気でどうにかしてやりたいと拳を固めていると、脇から颯が入部届を差し出した。
「先生、俺達入部届だしに来たんだよ」
「あ、そうだ」
俺も慌てて差し出すと、木下は満足気にそれを受け取る。
「……サトルくん、陸上部に入るの?」
ちょっと顔に白さが戻ってきたサユちゃんが小首を傾げて俺を見上げる。
「うん。中学の時も陸上してたんだ」
「先輩、サトルは速いですよ。なんてったって俺といい勝負なんだから」
颯、それ、速い感が全然伝わらねーから。
「そうなんだぁ。なんか意外。私、サトルくんってゲームしてるか本読んでるイメージしか無かった」
「サトルが本? 嘘っ。それ本当すか、先輩」
素っ頓狂な声をだして笑い出すのは颯。ジロジロ見るなよ、恥ずかしい。
確かに、俺が本を読んでる姿なんて、漫画か教科書でしか見てないだろうけど。