年上好き。
それを実証するようなイタイ思い出がある。

保育園を卒園して一年、母さんが双子の出産で入院していた時に、サユちゃんと再会するチャンスがあった。

会うのは一年ぶりで、俺はすっごく楽しみにしていた。
何して遊ぼう。病院だからうるさくしちゃ駄目だし。
小さいながらにワクワクしながら俺は考えてた。

なのに、その時のサユちゃんは別の男の話ばかりで。
俺は悔しく苛ついて、サユちゃんに怒鳴ってしまった。
最終的には仲直りしたけど、俺にとってはあれは心の傷だ。
その、当時のサユちゃんが大好きな男が、彼女の義理の父親だ。

つまりサユちゃんはファザコンってわけで。
年下よりも年上が好きなのは明らか。

俺と木下。比べた時におじさんに近い年齢なのは当たり前に木下だ。


 頭の中で、日本昔ばなしで山の上のお寺でなるような鐘がゴンゴンなる。

ああ、かんべんしてくれ。
年齢だけでこんな赤ジャージに負けるのは嫌だ。


「期待してるぞ、二人共頑張ってくれ」

「もちろんです。絶対負けねーから!」


熱く語った俺の叫びを、木下は部活への熱意として受け取ったらしい。
喜びまくってムカつくったらない。


「じゃあ明日からよろしくお願いします」

「え? おい。サトル?」

「悪い、颯。今日は約束あるから帰る」


本当は約束なんかもどうでもいい。
俺は一気に教室へ向かい、カバンを持った後昇降口に向かう。
そこには、新見を筆頭とした幼なじみ3人組と夏目の姿がある。


「あ、おい、中津川こっち」


手を挙げるクラスメートの集団をシカトして、校門を走って通過する。
イライラして、全力疾走しないと気が済まない。


「あいつ、はっえぇ」


夏目の一言だけが俺の耳に届いた。