「スイマセーン。入部希望なんですけど」
俺と颯が揃って声を上げると、赤いジャージが振り向いた。うお最悪だ。コイツ、さっきサユちゃんと話してた教師じゃん。
「入部希望? ホントか。おっ、なかなかいい体格の青少年が二人も」
ずいずいずいと顔を寄せてきて、俺達の体をベタベタ触る。
つーか人の胸板さわんなよ、気色悪い。
「あの」
「いいぞ、足にも腕にも筋肉がついてる。俺は陸上部の優秀な顧問の木下翔太だ。年は29歳。よろしくな」
「はあ」
足はいつ触った。適当なこと言うなよ。
それに自分を褒め称える言葉が多すぎるし、年とかも別に知らなくてもいいから!
「陸上部は基本毎日放課後すぐから練習だ。フィールドを使えるかどうかは他の部活との兼ね合いによるけどな。使えない日は校舎外回り。雨の日は廊下で筋トレだ」
「基本びっちりってことっすね」
颯がまとめて言う。
「テスト前だけは休みになるぞう」
偉そうに言うなよ。そんなの中学の頃だってそうだ。
頭の中で、なぜだか木下先生に反発する気持ちばかりが湧き上がる。
この赤ジャージを見て苛つくなんて俺は牛か。
でもツノでもあるなら突進したいくらいだ。
ムカつくんだよ。教師のくせに、サユちゃんとベタベタしやがって。
【……ああ、やっぱりサユちゃん先輩、年上の男が好きなのかぁ】
夏目のあの言葉が、頭の中でリフレインする。